都合のいい幻だ
夢現がうだうだうだ。
「―…」
空間の狭間には何もない。夢現が外に出て物を持ってきて狭間に置くことは可能である。しかし、彼女は外に出ない。
「…―♪」
膝を抱えながら小さく夢現は歌う。遠い昔、彼女が創られた時、創造者が歌ってくれた歌である。聖域の外には、他にも歌があると言っていた。
「きいてみたいなあ」
分身では物は食べられない。最近よく笑うようになったあのカイオーガやスイクンがもってくる物が気になって仕方がなかった。
「…くっきー、けーき、びすけっと。たべてみたいなあ」
気になることはたくさんある。答えは、自分が一歩踏み出せばすぐそこにあることも知っている。けれど。
「…こわいよ。また、ニンゲンに捕まりそうになったら…」
きゅっと自分の身体を抱く。かたかたと震え始めた身体を安心させるように、じょじょに力をこめる。
「…だれか、いっしょにいてくれないかなあ」
夢現はそっと目を閉じた。
微かに、誰かが呼ぶような声が聞こえた気がした、けれど。それは、
都合のいい幻だ
(でも寂しくてたまらないんだ)
空間の狭間への扉はそこらへんにあるので簡単に迷い込めます←