私の存在価値
美也子の過去話。
私は、そこにいるだけ。
「…おい!なんでだよクソがっ!」
「知らねえよ、お前がこいつ攫えば金貰えるって…!」
私の目の前で男が不毛な争いをしている。
馬鹿じゃないの?私がいいところの娘だからって、誘拐して身代金とろうとしても、私が大事にされてなきゃ、とれないのにね。
「おい、お嬢様よぉ。お前の親はお前のこと、いらないらしいぜ?」
「はははは!かわいそーになぁ?」
何言ってんのよ。
「…かわいそう?何言ってんの?あはははは。かわいそうなのはそっちでしょ?お金貰えると思ってたのに貰えないんだもん!あはははは!」
目の前の男の顔が歪んでいく。それを気にせず私は叫んだ。
「私はかわいそうじゃない!だって私は」
横っ面を思いっきり殴り飛ばされる。ぱたぱたと赤い血が地面に垂れる。ぎゃあぎゃあと男が騒いで私を蹴ったり踏んだりしている。そして私を仰向けにして、私の服をつかんで
「…大丈夫、なわけないですよね?意識はハッキリしてますか?」
誰だ。こいつは?さっきの男じゃない。
「私はファイルンという者です。あなたは?」
「…」
柔らかい光をたたえる瞳。今まで向けられたことのない瞳に、息がつまる。
「とりあえずあなたを家に送りましょう。家は」
「殺して。私はもう家に帰れないわ」
ぽかん、と目の前の男が私を見つめる。
「私はあの家が栄えるための生贄。家が栄えるためならどんなところへでも売られるし、どんなやつにも足を開くわ」
「だって、私はお人形だもの」
そう言いきったとき、男は私を抱きしめた。あったかい。
「…あなたは、人ですよ。人形じゃない。血の通った、人です」
「あなたは、自分の意思で生きる道を決めていい。あなたは、どうしたいですか?」
私の存在価値
(生きたい、と私は初めて言った)
美也子ちゃんマジ天使。署長もマジ天使。