氷砂糖とアールグレイ

落書きとか小説もどきとかその日語りでもそもそもそ。

静かな崩壊は急速する

IF。おかしくなった司郎の話。

 

 

 

がたがたと閉ざされた扉の向こうから物音が微かに響く。

「司郎、入りますよ…?」

そっと慶が声をかけ扉を開ける。昼間にもかかわらず暗い部屋の隅にぼうっと青い光が浮かぶ。

「司郎、どうしたんですか…?」

「にいさん」

蹲りかたかたと震えていた司郎はがばりと顔をあげた。呼吸は異常なほど早く、目は虚ろだった。

「にいさん、こわい、やだ、こえがきこえる、やだやだやだやだやだごめんなさいごめんなさい」

「司郎、落ち着いてっ。し、深呼吸!」

頭を抱え震えながら話す司郎の目には何も映っていなかった。目の前で必死に宥める慶の姿も、映っていなかった。

「」

「しろ…?」

「ああそうか」

震えが止まり、虚空を見つめる司郎がぽつりと言った。ぴりりと慶の背筋を何かがかけあがる。にい、と虚ろな目で笑った司郎から距離をとった。

「私に害をなすものは、全部ころしてしまえばいいんだ」

暗い部屋で鈍く光るメスを握った司郎がくすりと笑い近くのクッションに突き刺す。ビィッと布を引き裂く音が異様なほど響き、慶は茫然と弟の奇行の見ていた。

「あいつも、あいつも、みーんな、ころしてしまえばいいんだ。…ああ、あいつらは死んだか。残念だなぁ」

無残に引き裂かれたクッションから散った綿は白いはずなのに、何故か慶の目には赤く濡れた内臓の様なモノに見えた。

「にいさん、にいさん」

「ひっ…!?」

子供のように屈託なく笑った司郎は無邪気に言った。

 

静かな崩壊は急速する

(にいさんに嫌なことする奴いたら私に言ってね。みんなころすから)