氷砂糖とアールグレイ

落書きとか小説もどきとかその日語りでもそもそもそ。

また一緒に食べよう

カロスパパシリーズサクロ編

 

 

食事があんなに楽しいものだとは、あの日まで知らなかったんだ。

「…」

しんとした部屋でサクロは一人皿の上に乗った肉片をフォークでついていた。火の通り過ぎた肉を突き刺し口の中に抛り込み咀嚼するが味はしない。彼女が作ってくれたものはあんなにも美味しかったのに。

「…梅子、ちゃん」

ぽつりと呟いた言葉は思いのほか響き、言葉とともに涙も零れた。

「梅子ちゃん、美味しくないよぅ、一緒に食べたときは、あんなに美味しかったのに…」

一人きりの部屋にそれは悲しく響いた。

 

思考の海に溺れていたサクロを現実に引き戻したのは電話の着信音だった。

「…はぁい」

『…サクロか?』

「…私じゃなかったらどうします」

むっとした声色で答えればすまない、と返ってきた。何のようだ、という前に電話の主―ガロットが言った。

『ちょっと…来てくれないか』

 

「…いつの間にここは託児所になったんですかぁ?」

「うるさい」

教会へと言ってみれば、甲高い声が聞こえた。扉を開ければガロットが顔と甲高い声の主が見えた。

甲高い声の主は三人の赤ん坊だった。

「…で、なんなんですか」

「…ああ、こいつを引き取ってほしい」

そう言って差し出されたのは一人の赤ん坊だった。

「…何故私なんですかぁ?」

「私一人で三人も面倒を見れない。そこで浮かんだのがお前とファイルンだったわけだ」

差し出された赤ん坊を抱けば思っていたより柔らかい感触が伝わる。もぞもぞと動くたびに落としてしまいそうになり少しぞっとする。

「ああ、名前がないんだ。サクロがつけてくれ」

「私まだ面倒見るなんて言ってないんですが」

そういえばガロットは困ったような笑みを浮かべた。

「…でも、そいつはお前が面倒を見なきゃいけない」

「…カミサマのイウトオリですかぁ?」

「…いや、だってこいつらは」

きっと、あいつらなんだから、と呟いたガロットは慈しみを込めた瞳でガロットが抱いている赤ん坊を見る。その唇から雷、と呟かれたのを聞き腕の中の赤ん坊を見た。いつの間にか目を覚ましていた赤ん坊はくりくりした目でサクロをじっと見ていた。

「…あんたは、梅子ちゃん?」

「ぁうー」

花が咲いたように笑った赤ん坊はサクロへと手を伸ばす。その笑顔がふと在りし日に自分に向けられた少女の笑顔と重なる。

「…ああ、そうか、そうか…」

また会えたのだ、自分と彼女は。そう思ったサクロはそっと赤ん坊を抱きしめた。

また一緒に食べよう

(今度は私も作るから)

 

 

無駄に長くなった気しかしない。